基礎医学

【ドローイン】腹横筋トレーニングがメジャーになった論文解説

2020年2月1日

こんにちは、カラダ・ラボ オレンジです。

 

先日、日本身体機能研究会認定の腰痛運動療法指導士の資格を取得しました。

この研究会では腹横筋の単独収縮トレーニングであるドローインを重要視していて、私の勤務している整形外科でも腰痛患者にはドローインを指導することが多いです。

しかし、いつからこのドローインというトレーニングがメジャーになったのでしょうか。

また、最新の研究では「もうドローインは古い?!」というような見解もありますので、そのへんを今回は掘り下げたいと思います。

【ドローイン】腹横筋トレーニングがメジャーになった論文解説

 

腹横筋の単独収縮【ドローイン】がメジャーになったきっかけ

まずは、ドローインがメジャーとなった論文を解説していきます。

 

腹横筋のフィードフォワード機能

腹横筋をはじめとする体幹筋が注目し始めたのは1990年代からで、ローカル筋の重要性を報告した論文が数多く発表されました。

その中でも、Hodgesらが発表した論文により【四肢運動時の腹横筋フィードフォワード作用】が報告されてから腹横筋に注目が集まったのです。

 

論文要約

腹横筋は、上肢挙上時に主動筋である三角筋よりも先に活動し,体幹筋の中で最も早く活動を開始する1)。

同様の結果が下肢の運動でも確認されている2)。

慢性腰痛症患者では腹横筋の開始のタイミングは健常者と比較して遅延している。

つまり腹横筋は、四肢運動時に主動筋よりも早く活動するフィードフォワード作用を有し、慢性腰痛症患者は腹横筋の運動制御が欠如している。

参考論文

1)Hodges PW and Richardson CA. : Contraction of the abdominal muscles associated with movement of the lower limb. Phys Ther, 77 (2) : 132-142, 1997.

2)Hodges PW and Richardson CA. : Delayed postural contraction of transversus abdominis in low back pain associated with movement of the lower limb. J Spinal Disord, 11 (1) : 46-56, 1998.

 

腹横筋の単独収縮の重要性

腹横筋のトレーニングは、グローバル筋を活動させずに腹横筋を単独収縮させられるかが重要です。

腹横筋は胸腰筋膜を介して腰椎横突起に付着し、その収縮力によって胸腰筋膜の張力を高め腰椎を均一に牽引することで腰椎の安定性を高めます(musclulofascial corset-like system:筋筋膜コルセットシステム)。

しかし、

  • 腹横筋の収縮力低下や収縮タイミングの遅延
  • グローバル筋の過活動

 

があると、腰椎が不安定になり腰痛を引き起こす原因になります。

 

POINT

ローカル筋=固定筋

グローバル筋=動作筋

 

そのため、この後説明するドローインなどの腹横筋トレーニングではグローバル筋が活動しない程度の負荷で、腹横筋を単独で活動させる必要があります。

 

正確なドローインのやり方

ドローインというトレーニングは現在さまざまな雑誌やTVなどのメディアで取り上げられ、正直「それドローインじゃないじゃん…」というものもたくさんあります。

正しいドローインは、先程も述べたように【腹横筋の単独収縮が行えているか】ということが重要になります。

 

そのため

「思いっきりお腹を凹まして下さい」

「力いっぱい息を吐いて下さい」

など指示している場合はグローバル筋が活動するため正しいドローインとは言えません。

 

腹横筋の単独収縮を狙ったドローインを行う場合は、是非私が患者さんに指導するドローインのやり方を参考にしてみて下さい。

 

【正しいドローインのやり方(セラピスト向け)】

  1. 患者は仰向けになり、膝を立てる
  2. 患者の手をおヘソの下に置く※施術者は腹横筋を触診する
  3. (息を吸ってお腹を膨らませてから)息を吐きながらお腹を凹ませる

POINT

  • 「お腹を凹ませる」をいう指示で患者がどのような凹まし方をするのか評価することで、普段腹横筋を使えているかわかる
  • うまく腹横筋が活動しない場合は

「ベルトとおなかに隙間ができるようにおなかを凹ませて下さい」

「肛門を締めながら、おなかを凹ませて下さい」

「おしっこを我慢するようなイメージでおなかを凹ませて下さい」

など腹横筋を触診して刺激を入れながら、その患者が一番やりやすい指示する

  • グローバル筋の緊張で腹横筋が触れない場合は、先にグローバル筋の緊張を緩和させる
  • グローバル筋が過活動するときは、

「100%で息を吐いて下さい」←グローバル筋の活動

「では、30%で息を吐いて下さい」←腹横筋の活動

をグローバル筋の活動を一度収縮させてから、それよりも弱い力(30%が一番効果的)で指示すると腹横筋のみの活動を得られやすい

 

こちらの動画も参考にどうぞ

 

【ドローイン】はもう古い?!

ドローインはもう古い⁉

ここまでいかに腹横筋の単独収縮が大切かということを伝えてきましたが、最近の研究ではドローインを否定する意見もあります。

ここでは、それぞれの主張と私の考えをお伝えしたいと思います。

 

さまざまな病態の腰痛患者

Hodgesらの研究により、慢性腰痛患者は腹横筋の筋活動の遅延を認められたため、その後のリハビリ業界では【腰痛患者にはドローインを指導する】というのが一般化しました。

しかし、腰痛というのはそんなに単純なものではありません。

腹横筋の収縮タイミングが遅いため、手を伸ばすなどの四肢の運動の際ぎっくり腰になる方もいるし、タックルなどのより強い負荷のときには腹横筋の単独収縮のみではなくグローバル筋の筋活動により体幹の剛性を高める必要があるのです。

 

ドローインは1つのアプローチ方法でしかない

ドローインという腹横筋の単独収縮のトレーニングは腰痛患者への1つのアプローチでしかありません。

四肢運動時には腹横筋を主動筋よりも早く活動するフィードフォワード作用が働き、四肢への力の伝達や円滑な運動制御をしています。

このフィードフォワード作用の機能が低下している腰痛患者にはドローインのトレーニングによりグローバル筋を働かせないで腹横筋の単独収縮を促すトレーニングは有効です。

しかし、負荷の高いランニングやジャンプ動作のときには、腹横筋のみならずローカル筋とグローバル筋の共同収縮が必要で【ブレーシング:Bracing】のトレーニングが有効です。

 

病態把握が最重要

つまり、【腰痛患者にはこれだけしてればいい】というような魔法のようなトレーニングは存在しません。

そのため、目の前の腰痛患者の病態は何なのか、そしてどんな機能が低下していて、どんな代償をしているのかということを評価することが重要です。

なので、ドローインしか指導しない運動療法は時代遅れということです。

 

まとめ

普段の臨床で腰痛患者にドローインを指導する方は多いと思いますが、どんな論文をもとに有効な運動療法だとされているのか知らない方もいるのではないでしょうか?

今回はドローインが注目されるきっかけとなった論文を紹介しました。

また、今後腰痛患者にドローインを指導する時のポイントなども解説しました。

 

腰痛は患者さん一人ひとりで全く原因が違うため評価が大切です。

この記事が腰痛の治療が苦手なセラピストに少しでも役に立てれば幸いです。

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