一昔前では「冷え症」は女性の更年期障害の1つの症状として考えられていましたが、現代では中学生・高校生でも冷えの自覚があり、「冷え症外来」なんていう専門の外来まで増えてきました。
普段整形外科で「肩が痛い」「腰が痛い」と訴える患者さんも、冷えによる血行不良や痛みの閾値の低下から治療がうまく進まないことも多々あります。
今回はそんな「万病のもと」ともいわれる冷え症について掘り下げていきます。
この記事は
「冷え症」悩んでいる方だけでなく、
肩や腰の治療が難渋しているセラピストも新しいアプローチが見つかると思うので是非読んでもらいたいです。
冷え症の基礎知識
まずは、冷え症について説明していきます。
女性に多い冷え症ですが、「しょうがない」とそのままにしておくと様々な生活習慣病を引き起こしたり不妊の原因になることがあります。冷え性を改善するにはしっかり冷え症について理解することが大切です。
冷え性と冷え症の違い
よく耳にする「冷えしょう」には「冷え症」と「冷え性」があり、意味が異なります。
「冷え症」に使われる「症」という漢字は病気の性質という意味があります。
例えば、自律神経失調症、不妊症、脊柱管狭窄症などですね。
そのため、「冷え症」は病的な冷えと捉え、治療対象となる状態のことを指します。
一方、「冷え性」に使われる「性」は性質・体質という意味があります。
例えば、心配性などといったときに使いますね。
そのため、「冷え性」という場合は、検査で明らかな異常がないにもかかわらず手足が冷える場合に、「冷えやすい体質」という意味で用いることがあります。
冷え症の定義
冷え症には定義がありません。
病気には、正確な治療をスムーズに行うために定義が決められています。
例えば、不妊なら以下の通り
不妊の定義
「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいいます。日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。
日本産科婦人科学会HPより引用
しかし、冷え症には定義がありません。
そのためここでは、「私冷え症かも⁈」「この患者さんは冷え症かもしれない」と思った時に参考になる基準をご紹介します。
「私冷え症かも⁈」と思ったら下記に当てはまるか考えてみてください。
「通常の人が苦痛を感じない程度の温度環境下において、腰部や四肢末端、あるいは全身的に強い冷感を自覚し、さらに自律神経系の不随伴症状を伴うことで、日常生活において苦痛を感じている場合」
引用
1)九嶋勝司.斉藤忠朝.所謂「冷え性」について.産婦の実際 1956;5:603‐608.
2)寺澤捷年.漢方医学における「冷え症」の認識とその治療.生薬誌 1987;41:85‐96.
つまり
- 冷えを自覚している
- 自律神経系の随伴症状がある(疲れやすい、めまい、便秘、下痢など)
- 日常生活に苦痛を感じている
この3つの答えが全てYESになる場合は、冷え症と考え治療が必要です。
「この患者さんは冷え症かもしれない」と思ったら、下記の評価表を使って客観的に評価しましょう。
「冷え症」調査用問診票(寺澤変法)
引用
坂口俊二.冷え症に対する鍼灸治療の効果.全日本鍼灸学会雑誌 2003;53(1):49-54
冷え症の原因
冷え症の原因は、大雑把に言ってしまえば「末梢血管の収縮による血行障害」です。
しかし、なぜ末梢血管が収縮してしまうのでしょうか。
そのポイントは
- エストロゲンの低下
- 自律神経機能の調整不良
です。
1つ1つ解説していきます。
「エストロゲンの低下による末梢血管の収縮」
従来、冷え症は女性の更年期障害による不定愁訴の一つとして扱われていました。
それは、閉経前後で減少する女性ホルモンのエストロゲンが冷え症と大きく関わっているからです。
エストロゲンは、脂質代謝改善作用により動脈硬化形成を抑制したり、血管の内側を修復することで血管の柔軟性の維持する作用があります。そのため閉経後の女性は高血圧に悩む方が一気に増えるのです。
このようにエストロゲンは血管をしなやかに保つ役割があるため、エストロゲンが低下すると血管が硬くなり血行不良による冷えを起こしやすくなります。
「自律神経機能の調整不良 」
自律神経は交感神経と副交感神経に分けられ、交感神経は血管を収縮させる作用があります。
そのため、交感神経の過緊張や不均等があると血行不良により冷え症を起こしやすくなります。
このような自律神経の乱れは、ストレスだけでなく、「食事・睡眠・運動・喫煙などの生活習慣の乱れ」「女性ホルモンの異常」「食事制限によるダイエット」「BMI・体脂肪率・基礎代謝の低下」なども要因となりえます。
冷え症の改善方法
それでは具体的な冷え症の改善方法を見ていきましょう。
まずは、冷え症にはどんな治療法があるのか説明し、最後にすぐに実践できるセルフケアをご紹介します。
冷え症外来とは
冷え性外来では、循環・血管系専門の医師が問診・検査(血液検査、自律神経・末梢血流検査、各種ホルモン検査など)をして漢方を処方します。
近年増加する冷え症に対して、「冷え性外来」を設ける病院が増えてきました。ここでは冷え症の原因となる末梢血管のスペシャリストが問診や検査をしてあなたの冷え症の原因を突き止め、あなたに合った漢方を処方してくれます。漢方の処方以外に、食事・運動指導、場所によっては鍼灸も行う病院もあるみたいです。
鍼灸
冷え症治療には鍼灸もおすすめです。
冷え症に対する鍼灸治療は大きく東洋医学的な治療と西洋医学的な治療があります。
東洋医学的な治療では冷え症を瘀血(おけつ)と考え治療します。
瘀血とは、東洋医学で用いられる用語で、「うっ血や血行障害など血の流れの滞り」を意味します。
瘀血に効果的なツボはおなかや足にあり、セルフ灸にもおすすめです。
メモ
セルフ灸の参考動画
西洋医学的な治療では、足に鍼を打って電気を流し末梢の循環を改善します。
具体的には三陰交と足三里をつなぎ電気を流し、後脛骨筋が収縮すると効果的です。
後脛骨筋が収縮することで筋ポンプ作用による循環改善、また四肢末端への刺鍼により自律神経の調整が期待できます。
セルフケア
セルフケアは毎日続けることが最重要ポイントです!
私がおすすめするセルフケアは
- 3分エクササイズ
- 爪もみ
- 自律訓練法
です。
3分エクササイズ
下記の内容のエクササイズを行います。
エクササイズを習慣にするポイントは「習慣になっているものにくっつける」です。
例えば、毎日行う歯磨きの時にスクサットをするとか、お皿を洗っている時につま先立ちをするなどです。
3分エクササイズ
肩まわし:手を肩において前回し、後ろ回しを3回ずつ行う
つま先立ち:不安定な時には椅子などにつかまってつま先立ちを30回行う
スクワット:後ろの椅子に座るイメージでスクワットを10回
爪もみ
これは簡単で手の爪、足の爪をモミモミするだけです。こんな簡単ですが、30秒ほど続けると暖かくなるのが実感できます。
自律訓練法
この方法は自律神経が乱れやすい方におすすめです。
こちらの動画を参考にしてください。
はじめは「なんかの宗教かな?」と思うような怪しさ満点ですが、実際に心療内科や精神科などでも使われる治療法の1つです。
まずはだまされたと思ってやってみてください。
今回3つのセルフケアをご紹介しましたが、セルフケアは薬などの即時効果はありません。そのため毎日行うことが大切です。いきなりたくさんのことを始めると挫折しやすいので、「肩回しは通勤中にできる!」というような継続できそうなものから始めましょう。
まとめ
今回は冷え症について掘り下げました。
冷え症は、日常生活で苦痛と感じつつも「女性だからしょうがない」「年だからしょうがない」と軽視されがちです。
しかし、冷え症の原因となる末梢の血行障害はそのままにしておくとさまざまな病気を引き起こす原因となりえます。
また、冷え症による血行障害や痛みの閾値の低下は、腰痛治療など他の治療の妨げにもなります。
冷えの自覚がある方、また冷え症の方を治療しているセラピストは一度「冷え症」と本気で向き合ってみてはいかがでしょうか。